印西市草深の鍼灸治療院

電話
LINE
オンライン予約(2回目以降の方のみ)
お問い合わせフォーム
アクセス
Instagram
症例

ストレスと手湿疹

【ご相談内容】

長年、原因のはっきりしない「手の湿疹」に悩まれていた男性の症例です。仕事や生活のストレスが強くなると指先から手の甲にかけて赤みやかゆみが増し、皮膚が割れて痛みを伴うこともありました。ご本人も「ストレスがかかると決まってひどくなるんです」と自覚されていましたが、塗り薬だけでは良くなったり悪くなったりをくり返す状態でした。

【ステロイド外用薬と皮膚の変化】

この方は長期間、医療機関で処方されたステロイド外用薬も使用されていました。炎症が強い時には一時的に赤みやかゆみは治まるものの、手の一部では皮膚の色が白く抜けたようになり、周囲との色むらが目立つようになっていました。また、手の甲や指にニキビのような小さなブツブツができやすくなっており、「薬を塗ると赤みは引くけれど、皮膚が薄くなった感じがする」「前とは違うタイプのブツブツも出るようになってきた」と不安を抱いておられました。こうしたニキビ様のブツブツは、ステロイド外用薬の副作用の一つとしてみられる「ステロイドざ瘡(ステロイドによるニキビ様発疹)」の可能性も考えられる状況でした。

【生活背景と体質の所見】

現在は一人暮らしで、食事はスーパーの総菜が中心です。以前はコンビニ弁当も多かったそうですが、最近になって「少しは体に良いものを」と、納豆や豆腐などを毎日とるよう意識し始めたとのことでした。忙しさやストレスから食事時間が不規則になることも多く、「お腹が張りやすい」「疲れが抜けにくい」といった訴えもありました。舌を拝見すると、全体にむくんだように大きく、白くねばついた舌苔がつき、舌のふちが赤くなっている所見がありました。これは、消化器のはたらきが弱って余分な「湿気」をため込みやすい体質に、精神的なストレスや緊張が重なり、内側に熱がこもりやすい状態と、中医学では考えます。

【百会を加えるまでの鍼灸治療の経過】

治療はまず、お腹の真ん中付近にある「中脘」や、膝下の「足三里」、くるぶしの上にある「三陰交」などを用いて、胃腸のはたらきを整え、体の中にたまった湿気をさばいていくことから始めました。また、手や皮膚と関わりの深い「列缺」というツボを使い、肺の巡りと皮膚のバリア機能を高めることを狙いました。これらの治療を続けることで、全体のだるさやお腹の張り感は少し軽くなり、体調の底は確かに整ってきました。

しかし、手の湿疹そのものについては、「良くなる → ストレスがかかると悪化する → またステロイドに頼る」という波から完全には抜け出せず、ステロイドを減らそうとすると不安定になる状態が続いていました。つまり、土台の体質は整ってきているのに、「ストレスがかかった時の悪化のスイッチ」がまだ切れていない印象でした。

【百会を加えてから“波”が変わった】

そこで途中から、新たに「百会」というツボを加えました。百会は頭のてっぺん付近にあるツボで、全身の気の巡りをまとめる働きがあり、心身の緊張をゆるめたり、ストレスや不安からくる症状に用いられることが多い場所です。

百会を加えて治療を行うようになってから、ご本人の実感としてまず出てきたのは「ストレスを感じたときの身体の反応の違い」でした。職場でイライラする場面は相変わらずあるものの、「前のように、そのまま手のかゆみや赤みに直結しにくくなった」と話されるようになりました。それまでは、強いストレスがかかった日の晩や翌日には決まって湿疹が悪化していましたが、「イライラはあるのに、手が前ほど反応しない」という変化がはっきりしてきました。

それに続いて、手の湿疹そのものにも具体的な違いが見られました。赤みやかゆみが出ても、以前のように急激に悪化せず、ひび割れができる回数も減少。ステロイドを塗らなくても、比較的安定した状態が続くようになりました。白く抜けてしまった皮膚の色はすぐには戻りませんが、新しくできる湿疹やニキビのようなブツブツは明らかに減り、ステロイドを使う頻度の低下とともに、ニキビ様の発疹も落ち着いてきています。「前よりも悪化する“波”そのものが小さくなった」と、ご本人もはっきりと自覚されていました。

それまでの治療では「体の土台は整うが、ストレスがかかるとぶり返す」というところまでで頭打ちでしたが、百会を加えたことで、ストレス自体はゼロにはならないものの、それに対する身体の反応が穏やかになり、症状の強さと頻度が明らかに変わった、というのがこの症例の大きなポイントです。

【中医学的なとらえ方】

中医学的には、この方の手湿疹は、長年の食生活や疲労による「脾(消化器)の弱り」と、仕事や日常生活でのストレスからくる「肝のこわばり・心の負担」が重なり、体の中に湿気と熱がこもりやすくなって、それが手の皮膚に現れていたと捉えられます。中脘・足三里・三陰交・列缺といったツボで胃腸と肺・皮膚の土台を整えつつ、百会を加えることで、心と頭の緊張がゆるみ、「ストレスを感じてもすぐに皮膚に出てしまう」パターンが弱まり、その結果として手の湿疹が落ち着いてきたと考えられます。同時に、ステロイド外用薬の使い方を見直し、副作用と考えられるニキビ様の発疹が減っていった点も、この方の経過の中で重要なポイントでした。

【この症例からわかること】

この症例からわかるのは、手の湿疹といっても、単に皮膚だけの問題ではなく、「食事や生活リズム」「心の状態」「日々のストレス」といった内側の要因に加え、ステロイド外用薬の使い方や、その副作用と思われる症状も関わっている場合があるということです。特にこの方では、体の土台を整えるツボに加えて百会を用いることで、「職場でのイライラはあるが、それがそのまま湿疹の悪化につながりにくくなる」という身体の反応の変化が見られ、それが症状の安定につながりました。

当院では、皮膚の状態だけでなく、食事やストレスの状況、薬の使用歴も丁寧にうかがい、その方の体質と背景に合わせてツボを選びながら、必要に応じて皮膚科での治療とも併用しつつ、自己判断で薬を増減しないよう注意しながら、再発しにくい状態づくりを目指して治療を行っています。

コメント

この記事へのコメントはありません。

関連記事

  1. ストレスと手湿疹

  2. 発熱後に咳が軽減し、アトピー性皮膚炎が悪化した一例

  3. 便秘(お腹の動きが悪い)と全身の重だるさの症例 

PAGE TOP