【相談内容】
ある日、右の背中からお腹にかけて違和感を覚え、その後に水疱(みずぶくれ)が発生。2日後に近隣の皮膚科を受診したところ「帯状疱疹」と診断された。抗ウイルス剤や鎮痛薬(タリージェ)を処方され、皮膚の水疱自体は治まったものの、発症から1ヶ月が経過した現在も激しい痛みに悩まされている。
特に夜間の痛みが強く、夜は1時間おきに激痛で目を覚ましてしまうため、心身ともに疲弊している。ペインクリニックで神経ブロック注射も受けたが十分な効果を感じられず、インターネットで「帯状疱疹の痛みに鍼灸治療が有効である」と知り、当院へ来院。
「現在の激しい痛みを取り除き、このまま後遺症である『帯状疱疹後神経痛』へ移行しないようにしたい」との切実なご相談でした。
主訴:右背部から腹部にかけての激しい神経痛(帯状疱疹後の痛み)
随伴症状:夜間痛による深刻な睡眠障害(1時間おきの中途覚醒)、水疱跡の濃い色素沈着
【中医学的分析】
舌や皮膚の状態、痛みの性質を詳しく診察したところ、今回の痛みの根本的な病態は「気滞血瘀(きたいけつお)」であると判断しました。
① 気滞(きたい:エネルギーの巡りの停滞)
中医学では、体の中を流れるエネルギーを「気(き)」と呼びます。帯状疱疹のウイルスによる炎症や、長引く激しい痛み・睡眠不足によるストレスは、患部周辺の「気」の流れを強く塞き止めてしまいます。気の流れが滞ると、張るような痛みや強い違和感を引き起こします。
② 血瘀(けつお:血流の滞りと古い血の停滞)
「気」と「血(けつ:血液や栄養)」は一緒に全身を巡っています。そのため、気の巡りが止まると、やがて血の流れも悪くなり、患部にドロドロとした滞りである「瘀血(おけつ)」が生じます。
今回のケースでは、舌の色が白っぽく暗い紫色を帯びていること(淡白・紫暗)、そして水疱が治った後の皮膚の色素沈着が非常に濃く残っていることから、患部の経絡(気血の通り道)に強い「瘀血」がこびりついていることが分かります。
中医学には「不通則痛(ふつうそくつう:通りが悪くなればすなわち痛む)」という言葉があります。水疱という表面の火事は鎮火したものの、皮膚の奥の経絡に「気滞」と「瘀血」という通行止めが残っているため、夜も眠れないほどの激しい痛み(刺すような痛み・夜間痛は血瘀の典型的な特徴でもあります)が続いていると見立てました。
【治療】
「気滞血瘀」の状態を解消するため、滞った古い血(瘀血)を取り除き、気と血の巡りをスムーズにして痛みを鎮める「活血化瘀(かっけつかお)・理気止痛(りきしつう)」を目的として施術を行いました。
1. 気の巡りを整え、全身の緊張を緩める
背中からお腹の側面(脇腹)は、ストレスや自律神経と関わりの深い「少陽経」や「厥陰経」といった経絡が流れる場所です。まずは手足のツボを用いて、痛みと睡眠不足で張り詰めたお身体の緊張を解き、気の通り道を広げました。
2. 「瘀血」を除去し、局所の血流を改善する
血の巡りを強力に促すツボや、痛みの出ている右背部〜腹部に関わる経絡上のツボを選穴します。新鮮な気血を患部へ送り込むことで、滞っていた瘀血を洗い流し、傷ついた神経や皮膚組織の修復を促しました。
3. 後遺症への移行を防ぐための体質ケア
ご高齢になると、気血を生み出す力自体も消耗しやすくなります。体力や回復力を補いながら、深部に残る根強い痛みの芽を少しずつ取り除いていきました。
【経過】
初診後
1回目の治療を終えた後、これまで一番の悩みであった「右背中の神経痛」がすっと和らぎ、その夜は久しぶりに4時間続けて眠ることができたとのご報告をいただきました。睡眠がとれたことで、お顔の表情にも少し安堵が見られました。一方で、お腹側の激しい痛みにはまだ変化が見られませんでした。
2診〜4診目
週に1〜2回のペースで治療を継続し、現在4回目の施術を終えた段階です。
背中の痛みは落ち着いており、さらに水疱跡の黒ずんでいた色素沈着が以前よりも明らかに薄くなってきました。これは、皮膚や経絡の奥に滞っていた「瘀血」が着実に改善され、局所の血流が戻ってきている重要なサインです。
一方で、お腹(腹部)の神経痛に関してはまだ根強く残っており、現在はこの腹部の深部に残る気血の滞りを解消するため、アプローチを微調整しながら集中的に治療を続けています。
【まとめ】
帯状疱疹の痛みは、皮膚の水疱がきれいに治った後でも、体の内側(経絡)に「気血の滞り(瘀血)」が残ることで、激しい神経痛として長引くケースが少なくありません。特に70代以降は気血の巡りや回復力が低下しやすいため、お薬やブロック注射だけでは痛みが取りきれないことも多く見受けられます。
今回の患者様のように、まずは「背中が楽になり、まとまって眠れるようになる」「皮膚の色素沈着が薄くなる」といった変化は、お身体の内側で確実に血流が改善し、修復が進んでいる証拠です。お腹の痛みのように一部にしつこく残る痛みに対しても、焦らずに瘀血を取り除き、気血を巡らせていくことで、後遺症への移行を防ぎながら快方へと向かうことができます。
日常生活での注意点
患部を決して冷やさないこと:「血(けつ)」は冷える滞りが強くなり、痛みが強まる性質(寒凝血瘀)があります。お腹や背中は腹巻きやカイロ、温かい入浴などでしっかり保温してください。
睡眠と休養を最優先に:痛みが少し和らいだタイミングでも無理に動かず、お身体の回復にエネルギーを回すことが大切です。
「水疱は治ったのに痛みだけがずっと消えない」「夜も眠れないほどの痛みが続いている」という方は、痛みが完全に定着してしまう前に、ぜひ一度当院までご相談ください。
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