
骨盤輪骨折
骨盤輪骨折は寛骨臼骨折を除いた骨盤骨折です。
骨盤のリング構造が壊れて、安定性が失われる骨折
【相談内容】
交通事故により骨盤輪骨折を受傷。手術と長期のリハビリを経て職場復帰を果たせるまでに回復されたものの、冬場の厳しい寒さとともに、腰部の強い痛みと右足全体の痺れが悪化してしまった50代男性の症例です。
朝に鎮痛用の坐薬を使用することで午前中はなんとか業務をこなせるものの、午後を過ぎると痛み・痺れが急激に増悪し、夕方には自力歩行が困難になるほどの状態でした。「坐薬に頼る生活から脱却し、夕方以降も無理なく歩ける身体に戻したい」と強いご希望をお持ちになり、当院へご相談いただきました。
主訴:骨盤輪骨折後の腰痛、右下肢(臀部〜大腿・下腿)の痺れ・痛み
【中医学的分析】
中医学では、外傷や手術の既往に加え、寒冷期に症状が悪化するメカニズムを主に以下の3つの観点から捉えます。
① 瘀血(おけつ:血液の滞り)
骨盤骨折という重度の外傷や外科手術の痕(瘢痕組織)の周囲は、細かな血管や経絡(気の通り道)が傷つき、血流が滞りやすい状態になります。これが慢性的な痛みや神経刺激を引き起こす基盤となっている。
②寒邪(かんじゃ:冷えのダメージ)
冬の厳しい冷気(寒邪)が体に侵入すると、気血の流れを凝滞(ぎょうたい:固まらせて止めること)させ、血管や筋肉を強く収縮させます。これが「不通則痛(ふつうそくつう:通じざれば則ち痛む)」を引き起こし、午後から夕方にかけての症状悪化に拍車をかけている。
③経絡の気血阻滞(足の太陽膀胱経・足の少陽胆経)
腰部から臀部・下肢の外側および後面を走行する経脈の流れが、手術部位の拘縮と冷えによって塞がれ、足先まで正常な栄養と温もりが行き届かなくなっている。
【治療】
組織の拘縮や手術痕の血流を改善するアプローチと、患部深層まで温めて寒邪を追い出す施術を段階的に行いました。
1. 手術痕周囲への皮膚刺絡(ひふしらく)
臀部から大腿にかけて残る手術痕周囲に皮膚刺絡を行い、長年滞っていた微小循環の瘀血を取り除きました。組織の緊張を和らげ、経絡の滞りを開通させる目的です。
2. 腰部・下肢への灸頭鍼(きゅうとうしん)
腰椎の患側(右横の腰部夾脊穴や腎兪付近)および右下肢の主要穴(環跳、委中、陽陵泉など)へ刺鍼し、鍼の頭に艾(もぐさ)を乗せて燃焼させる灸頭鍼を実施。深層筋の緊張を緩めながら、温熱刺激を骨盤深部へ届ける。
3. 伏臥位での施術への変更と火鍼(かしん)の導入
側臥位による関節への物理的負荷を避けるため、2診目以降は安定したうつ伏せ(伏臥位)を採用。鍼を火で赤熱させて瞬時にツボへ刺激を与える「火鍼」と灸頭鍼を組み合わせ、深部にこびりついた寒邪を徹底的に散らし温通(温めて通す)を図りました。
【経過】
初診
右半身を上にした側臥位にて皮膚刺絡と灸頭鍼を実施。施術途中に姿勢負荷または刺激量の影響から一時的に下肢の痺れが強まりましたが、施術終了後に安静を保つことで痺れは徐々に落ち着き、軽快感を確認する。
2診(初診から1週間後)
体位を負担の少ない伏臥位へ変更。深部の冷えを取り除くため火鍼と灸頭鍼を中心とした温通療法に切り替えたところ、施術直後から下肢の重だるさと冷感が大幅に軽減する。
3診(初診から2週間後)
「夕方に足が痛んで歩けなくなるような辛さがなくなった」と大幅な改善を報告いただく。午前中の仕事だけでなく、午後から終業時まで歩行機能を維持できるようになる。
現在
骨盤の構造的負荷や軽度の痺れ・張り感は残存しているため、坐薬の使用量軽減と完全な日常生活の安定を目指し、週1回のペースで治療を継続中です。
【まとめ】
骨盤骨折などの大きな外傷を経験された部位は、構造的な癒合を果たした後でも、組織の癒着(瘀血)や冷え(寒邪)が重なることで神経痛や血行障害が慢性化しやすくなります。西洋医学的なリハビリと並行して、東洋医学の「滞りを流し、芯から温める」アプローチを施すことで、頑固な痛みや痺れに対しても確かな手応えが得られるケースは少なくありません。
冬場や季節の変わり目に痛みがぶり返す方は、患部をカイロや入浴で温めることを習慣にし、決して冷やさない環境づくりを心がけてください。「古傷だから」「寒さのせいだから」と諦めず、ぜひ一度ご相談ください。
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